口内炎の治療薬や総合感冒薬などのOTC 医薬品にも配合されており知名度の高いトラネキサム酸。医薬品だけではなく、スキンケアの分野でも活用されています。トラネキサム酸の歴史や機能について、第一三共ヘルスケアの研究員、辻恵子さんにお話を聞きました。
H&B 研究所
有用性研究グループ長
医薬品・スキンケア・オーラルケアの製品や成分の有用性・安全性の評価や研究を担い、製品の品質や効果追及のためのエビデンスを創出している。
目次
トラネキサム酸が歩んできた長い歴史
トラネキサム酸が医療用医薬品に初めて使われてから、2025 年で60 年が経ちました。まずはその歴史について教えてもらいます。
トラネキサム酸とはどのような成分?
トラネキサム酸は、第一三共の前身である第一製薬が、たんぱく質を分解し炎症を引き起こすプラスミンという成分に働く抗プラスミン剤として開発した化合物です。
1951 年、当時慶應義塾大学医学部の講師だった岡本彰祐博士らが、抗プラスミン作用のあるイプシロン-アミノカプロン酸を発見。抗プラスミン剤の先駆けとして旧第一製薬から発売されました。その後、より強力な抗プラスミン作用を持つトラネキサム酸が1964 年に発見されました。
長い時間をかけて磨かれた成分 ― トラネキサム酸の歩み
医療用医薬品として1965年に発売され、手術時の止血のほか、血友病、紫斑病などさまざまな適応範囲で高い効果を示してきました。その後、炎症やアレルギー症状を抑える用途にも使われるなど、医療用医薬品としての利用の幅が広がりました。さらに、OTC医薬品のかぜ薬などにも応用され、今日に至っています。
トラネキサム酸が広げた可能性
広い用途で使われるにつれ、トラネキサム酸は抗プラスミン剤としてより幅広い症状に効果を発揮することがわかってきました。そのなかで大きな注目を集めたのが、肝斑改善薬への応用です。
世界初の“肝斑改善薬”へ ― OTCで広がったトラネキサム酸の可能性
トラネキサム酸を配合した医療用医薬品は、皮膚科では蕁麻疹(じんましん)の薬としても処方されていました。そのなかで、複数の皮膚科の医師から、トラネキサム酸がシミの一種である肝斑(かんぱん)にも効くという証言が聞かれるようになり、医学系の論文でも報告され始めました。そこに当社のOTC医薬品の開発担当者が着目し、みんなが買える肝斑改善薬の開発に取り組みはじめました。その時点ではトラネキサム酸の肝斑への使用は適用外だったため、新効能医薬品として承認を得るためには高いハードルがありましたが、そのハードルを粘り強く一つひとつクリア。2007年に世界初の肝斑改善薬が発売されました。
トラネキサム酸の皮膚への有用性
トラネキサム酸がスキンケアへ広がった理由
当社は製薬会社の立場からトラネキサム酸の活用に長年取り組んできました。一方、美容業界では、ある化粧品メーカーが抗炎症と美白のメカニズムに関する研究のなかでトラネキサム酸に着目し、スキンケア分野の有効成分として医薬部外品の承認を取得しました。以来、美容業界でもトラネキサム酸が広く使われるようになり、当社でも薬用化粧品の研究・開発に着手しました。
“美白”と“肌あれケア”を支える成分 ― トラネキサム酸の薬用化粧品としての効能

2 つあります。一つは、メラニンの生成を抑え、しみ・そばかすを防ぐ、いわゆる美白効果。もう一つは、抗炎症作用によって肌あれを防ぐ効果です。
紫外線を浴びると、まず、表皮の奥にあるメラノサイト(シミの元になるメラニンを作る細胞)の周りにある細胞から、「メラニンを作らせる情報」が伝達されます。トラネキサム酸がその「メラニンを作らせる情報」の中のプロスタグランジンなどをブロックすることでメラニンの生成を抑え、しみ・そばかすを防ぐ作用があります。
ありがとうございました。
60年にわたる研究と臨床の積み重ねにより、トラネキサム酸は医療用医薬品からスキンケアまで活躍の場を広げてきました。確かなエビデンスに支えられた成分として、これからも人々の健康と美しさに貢献していきます。